住職の独り言」・・・・その112

 みなさまいかがお過ごしでしょうか…
 シトシト、ジメジメといった昔ながらの梅雨とは違った、熱帯的なスコール、ゲリラ豪雨といった梅雨にも若干慣れてきた…?感がある自分にある意味腹立たしさを感じております。以前にもお話しましたが、気象の変化は決して自然の成すことばかりではなく、私たち人類の犯している行動によるところが大なのであります。

 さて、かなり前になりますが、ガンで生涯を終わられたある検事総長が、
『人は死ねばゴミになる』という本を残されました。高名な宗教学者がガンと壮絶に戦って、「死ねば無に帰す」と達観されました。そのほかにも死を目の前にされた方が残された著書、名言が数多くあります。
 死と向かい合った人たちであったからこそ、それぞれ自分に納得できる心境に達したのであろうと考えられます。ひるがえって言えば、どのような人でも、死に対する恐れは人生最大級の恐れであるに違いありません。死と向かい合う時間があって、現代の一流のインテリならばこそ、そうした達観をして、死の恐れをのりこえられたというべきでしょう。

 お釈迦様が、生・老・病・死の四苦を、誰もが逃れることのできない人間の根本的な苦しみだとされ、この四苦を乗り越える道として、仏教を説かれました。
 私たち一人ひとり、心弱いものばかりです。検事総長も宗教学者も、同じく心弱いわれわれの仲間だったはずです。だから、死を乗り越える智慧が必要だったのでしょう。

 お釈迦様も、死への恐れを人一倍持たれたに違いありません。こうして仏教のなかに盛られた、死を乗り越える智慧を、いま、日本の仏教では、お葬式として役立てているわけです。
 天台宗の場合を例にとってみますと、お葬式のテーマは、死の先に横たわる迷いの世界を打ち捨てて、悟りの世界に入る、お釈迦様のような仏さまになってしまおうということです。

 住職は、お葬式でいわゆる引導を授けてくれます。もう少し詳しく言うと、まず髪を剃って仏道修行者にしてくださり、お経を読み聞かせて往生の決定と追善回向をし、仏様として具えるべき徳をあらわす印契を授けて、この身このままで仏になる覚悟を与えてくださろうというのです。
 髪を剃る意味の儀式は、僧侶になる得度式と少しもかわりがありません。みな同じく頭を丸めて、平等な立場から修行者として出発しようというのです。俗名を改めて戒名を名のり、決然と修行の道に専念しようというのです。かたく、仏法僧に帰依を誓って、正しく素直な修行に進もうというのです。
 むかしの高僧は、臨終にお経を聞いて、この世の修行を満足し、つぎなる修行のかてとしたと伝えられます。施主は心をこめて読経してもらい、その功徳をいま浄土に旅立とうとしているひとにめぐらして、回向してあげ、その修行のかてにしてあげようというのです。
 引導の具体的な部分は、ご住職が死を迎えたひとに、修行の障害をとりのぞき、仏さまそのものの徳をあらわす印契を授け、道理を悟らせようとするものです。これによって、死に行くひとは、みずからの決意をかたくし、阿弥陀さまの、一人残らず極楽浄土に往生させて、修行を完成させてあげるという誓いにはげまされ、わが身わが心こそ仏さまなのだという自覚を得て、充溶として人生最大の苦である死を乗り越えるというわけです。

 お葬式には二つの側面があるといえます。
 ひとつは、こうしてお話しているように、やがて死を迎えなければならないわれわれ一人ひとりが、お葬式をどのようなものか正しく把握して、自分自身が死を乗り越える道として、この仏教につちかわれてきた智慧をとりいれるという面です。
 もうひとつは、どのような形の死の場合であっても、死にゆくものを取り巻く人々が、一人ひとり精一杯真心をつくして、この仏教の智慧をうけいれて、悔いのない送別をすることです。

 死への恐れと同時に、私たちには、死んだものへの恐れがあります。仏教が死にかかわらなかった時代には、死とは忌むべきこととして、けがれを取り除くという考え方で扱われてきました。しかし、仏教によるときには、死は栄光である仏への出発点として意味づけられたのです。

 今回は、皆様がふだんあまり係わりたくない、死ということについてお話しましたが、生まれてきた以上、絶対に避けられないことであり、また、死について考えるということは、いかに生きるかということでもあるわけです。私たちは、もっと積極的に死について考え、学んで行くべきであると思います。そのために、生きているうちに、お寺へ行き、住職さんと気楽にお話して見ましょう。意外と面白い場所かもしれませんよ。(^0^)

 では、まだしばらく天候不順な季節が続き、その後は暑さ本番の夏がやってまいります。くれぐれもクーラーにあたり過ぎたり、冷たい物を飲みすぎて、体調をくずさないように充分注意してお過ごしください。 グッド・ラック
合 掌


死を乗り越える―葬式―

平成26年7月1日


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